浜から上がり、あの大きな白い神殿の方にヤシマは向かっていった。
真直ぐに向かう道は一度下り、そして緩やかにまた登ると目の前にあの白い建物が天をついて現れた。
荒れ果てた土地を想像していた3人だっただけに、その白木に輝く驚くべき建造物を見上げて圧倒された。
思わずその神殿の下で平伏した3人だったが、ヤシマは脇の棟へと案内した。
「まずは話を聞こう。なぜに陽出ずる地より遣わされたのか?」
「その前にひとつお聞きしてよろしいでしょうか?」
「なんじゃ?」
「あの社に祀られておりまするは?」
ヤシマはうなずくと答えた。
「スサの神じゃ。存じおるか?」
マナイはうなずいた。
「なぜにあそこまでに大きな社を?」
「此の地は先年より陰極まりて、恵みが薄い。スサの神にわれらの声が届くよう、われらのすべてをかけて築いた。」
出かかった言葉を飲み込んでうなずくと、マナイは言った。
「われらの地に青龍神がみえました。」
「青龍神?」
「アオハカ殿が負うのは此の島の髄を負う青龍神でございます。」
「アオハカは辿り着いたのじゃな?」
「彼の地には龍と人の中継ぎをなさるナダさまがいらっしゃいます。青龍神の言伝が降りました。青龍が彼の地に動くことで、四神座して星動く、と。南が沈みまする。」
「何?」
「天神地神が動くとき、人も動けと。」
「なんとせよと?」
「悔い改めて心をひとつとせねばなりません。」
そこでマナイは平伏してヤシマに物申した。
「神社(かみやしろ)も素晴らしき御印(みしるし)でありましょう。ですが、四神の御心は別にございます。」
ヤシマは押し黙った。
ウタは気配を察して前へと膝を進めた。
「まずは陽の出ずる地よりの引き出物をごろうじあれ。話はそれよりゆるりとまいりましょう。」
サシカイが背負って来た荷をヤシマの方へと捧げ持って進んだ。
ヤシマはくったくのある表情を崩さなかったが、ようやくゆらりと立ち上がると、手をたたいた。
「宴の仕度をいたせ。客人をもてなすのじゃ。」
マナイが無用なもてなしを辞退しようと顔を上げたのを、ウタが止めた。
宴の仕度が整うと、ヤシマに伴われて幾人かの人々が姿を見せた。ヤシマはマナイたちに紹介した。
「こちらが今此の地の司をされておるクグツ殿とその妃カズラ殿じゃ。」
「スサの雷(いかづち)が降りられたと聞きましたが?」
「それも知っておられるのか。」
ヤシマは嘆息して答えた。
「オグド殿の家は絶えた。さ、」
そう言って白いものを盃に注いだ。
マナイが躊躇していると、ヤシマは重ねて勧めた。
「われらが地は疲弊しておる。蓄えもない。だが、客人をもてなすことが出来ぬとあっては誇りも廃る。受けてくれ。」
ようやくマナイは畏まって盃を受けた。
「では。返礼を。」
そう言うとウタはもてなしへの感謝を込めて歌い始めた。
〜はじまりのかすみたなびく峰々に
降り立つ縁(えにし)振り分けて
今につづかん星の巡りの〜
ウタは遠い昔この星に降り立った自分たちの縁を結びつけるかのように、その不思議と喜びを謳うのだった。
その歌の澄んだ響きに、ようやく座はゆるやかな和解をみせてこころは紐解かれていった。
クグツがマナイに聞く。
「四神とは?」
「青龍、白虎、朱雀、玄武にございます。ナダさまによれば、すでに三神は座しておられ、青龍を待つのみだったとか。」
「時至ったのか。」
ヤシマはそう言ってうなった。
「南が沈むのみではあるまい。われらはどうすれば?」
「ならば、あらためて四神の御旨を此の地にて星読みたいと思いまするが、お許しくださいますか?」
ヤシマはクグツと顔を見合わせた。
「だが、ぬしは陽の出ずる地の星読みであろう。われらにはわれらの星読みがおる。ないがしろにするわけにはいかぬ。」
「たしかにそうでございます。ではそのクシナタ殿にお引き合わせいただけませぬか?」
「申したはずじゃ。臥せっておる。」
「ですが、今は急を要するのです。枕辺なりと。」
カズラが口を開いた。
「クシナタとて星読み。望むところでありましょう。」